書名 増訂・ヤツタカネ物語-2050年までに、ヤツタカネは絶滅する-
著者 八津 高嶺
体裁 限定300部内販売分250部・B5・125頁フルカラー(99図・223写真)+38プレート
発行年 2023年3月25日
定価 8,800円(送料別)
内容 ヤツタカネ物語、続・ヤツタカネ物語、新・ヤツタカネ物語に続く4冊目、後世に残す40年余年間のヤツタカネの膨大な記録の締め括りです。

 1979 年(昭和 54 年)にヤツタカネを追い始めて、40 年余年が過ぎた。その間、1998 年(平成 10 年)にはヤツ タカネの再発見に至る経過を記した「ヤツタカネ物語」、2002 年(平成 14 年)にはヤツタカネの生態を解明し た「続・ヤツタカネ物語」、そして 2007 年(平成 19 年)には北アルプス産のタカネヒカゲとの交配実験によって、 ヤツタカネが北アルプス産と同種であることを検証した「新・ヤツタカネ物語」を上梓することができた。
 筆者は、それ以降も今日に至るまで八ヶ岳に何回となく通い、ヤツタカネの生息地の変化とヤツタカネの成虫 の発生状況の推移を見守って来た。しかしこの間、地球の温暖化が進み、「ヤツタカネ物語」で予想した通り、生 息地もその影響から免れることは不可避となった。
 それは、直接的には北海道のヒメチャマダラセセリの生息 地と同様に「ハイマツの進入、伸長による生息地の減少」、間接的にはシカ害による「草地の荒廃」により今 までの生息環境が悪化し、より高標高の草地に生息場所を移し始めている。
 10 年程前までの主な生息地は、標高 2,500 ~ 2,600 mの背丈の低いハイマツ帯に点在する草地で、生息地の ハイマツの面積割合は草地と同じかそれ以下で、背丈も 30cm 程、高くても 60cm 程であった。しかし、最近 ではハイマツが草地に進入し、ウラジロナナカマドやミヤマハンノキ等の低木の落葉樹を衰退させ、点在する 岩をも覆い隠して、その割合は全体の 70%程に広げ、高さが1mを超えるハイマツ帯も出現し始めた。
 この ため従来の生息地の草地は衰退し、主な生息地は標高 2,630 ~ 2,650 m付近の散策可能なお花畑周辺に移って きた。40 ~ 20 年程前は、大ダルミ最下部の標高 2,500 m付近の東側の谷筋では、谷の向かい側の台座の頭(横 岳第1峰)の下方斜面と、こちら側の大ダルミをヤツタカネが行き来する姿を観察出来たが、今では大ダルミ 最下部はハイマツに覆われ、当時の光景を窺い知ることは叶わない。これは大まかに 40 年間で主な生息地の 標高が 100 m程高くなったことになり、平均気温が約 0.6℃上昇したことに相当する。それも 40 年間で徐々に 高標高化したのではなく、この 10 年程で加速度的に上昇していると感じられる。
 2010 年(平成 22 年)頃から、ヤツタカネの生態写真が頻繁にインターネット等の電子媒体や、報告書の紙媒 体に掲載されるようになり、「ヤツタカネは個体数が増えた」と評する同好者も見られるが、これは的を射て おらず、「主な生息地が高標高地に移動した」ことが原因である。 しかし、残された草地は、標高 2,795 mの 台座の頭までの北西斜面の草地であり、冬季の強い偏西風の影響を考えると、せいぜい、標高 2,700 ~ 2,750 mまでが生息可能な上限と思われる。よって残された標高差は多くても 100 m程であり、このまま一次関数的に 温暖化が進んだとしても、2050 年~ 2060 年頃にはヤツタカネの生息地の草地はハイマツに専有されて消滅し、ヤ ツタカネもそれに伴い絶滅してしまうだろう。
 地球温暖化を止めることは不可能に近く、例え原因とされる二酸化炭素 CO2 の排出量を、今、ゼロに抑え たとしても、これまでに蓄積された排出量を減らさない限り、生息地を元に戻すことは困難で、また元に戻る とは限らない。更に、幼虫態で2~3回越冬するヤツタカネの飼育は難しく、オガサワラシジミやツシマウラ ボシシジミ、ヒメチャマダラセセリのように飼育によって個体数を増やし、また元の生息地に戻そうとしても、 生息環境そのものが無くなってしまえば、放す場所も無い。
 このように、前途多難なヤツタカネに対して出来 ることは、今までの知見を記憶が残る間に記録として後世に残すことであり、本書を世に送り出して、40 余 年間の「ヤツタカネ物語」の締め括りとしたい。


Plate 1~38
ヤツタカネの標本
夏の対岸から生息地の全景の比較
秋の対岸から生息地の全景の比較
夏の対岸から上のポイントの比較
秋の対岸から上のポイントの比較
夏の対岸から下のポイントの比較
秋の対岸から下のポイントの比
夏の上のポイントの比較
秋の上のポイントの比較
夏の下のポイントの下から下のポイントの比較
秋の下のポイントの比較
夏の上のポイントの比較
夏の下のポイントの比較
夏の大ダルミ下部の比較
秋の大ダルミ下部の比較(右の Plate)
夏の大ダルミ最下部から上部の比較
夏の大ダルミ下部から上部の比較
夏のお花畑の上部の比較
夏・秋のお花畑上部の比較
秋の台座の頭とお花畑入口の比較
秋の対岸からのお花畑の比較
夏のお花畑の遊歩道の比較
夏の硫黄岳山荘下の比較
夏・秋の牛首川源頭の比較
夏・秋の富士山を望む硫黄岳裏の東側斜面の比較
秋の硫黄岳裏の飼育地の比較
夏・秋の硫黄岳裏の東側斜面の下方の比較
夏の台座の頭への稜線から大ダルミの比較
夏の台座の頭から大ダルミの比較
夏の大ダルミ下部の変遷1
夏の大ダルミ下部の変遷2
夏の大ダルミ下部の変遷3
Plate の撮影位置と方向
樺太産タカネヒカゲの卵
樺太産タカネヒカゲの幼虫
樺太産タカネヒカゲの幼虫・蛹・成虫
樺太産タカネヒカゲ・ヤツタカネの成虫
関連文献

第1章 その後のヤツタカネを取り巻く環境
○ レッドリストのカテゴリーの変遷
○ 法的規制の強化
○ 生息地のシカ害調査
○ シカ害対策
○ 密猟者の取締り
○ 保護増殖事業の展開
○ DNAの分子系統解析による推定

第2章 その後のヤツタカネ
○ プロローグ
○ 1998 年・夏
○ 1999 年・夏
○ 2000 年・夏
○ 2001 年・夏
○ 2002 年・夏
○ 2003 年・夏
○ 2004 年・夏
○ 2005 年・夏
○ 2006 年・夏
○ 2007 年・夏
○ 2008 年・夏
○ 2009 年・夏
○ 2010 年・夏
○ 2011 年・夏
○ 2012 年・夏
○ 2013 年・夏
○ 2014 年・夏
○ 2015 年・夏
○ 2016 年・夏
○ 2017 年・夏
○ 2018 年・夏
○ 2019 年・夏
○ 2020 年・夏
○ 2021 年・夏
○ 2022 年・夏

第3章 ヤツタカネに迫る危機
○ 八ヶ岳のシカ害
○ 生息地のシカ害
○ 生息地のハイマツの勢力拡大
○ 生育地の高標高化
○ 2050 年頃には草地が消滅する?

第4章 樺太産タカネヒカゲの飼育
○ 樺太産タカネヒカゲの今までの知見
○ 2012 年・盛夏
○ 2012 年・晩夏
○ 2012 年・秋
○ 2013 年・春
○ 2013 年・初夏
○ 2013 年・盛夏
○ 2013 年・晩夏
○ 2013 年・秋
○ 2014 年・春
○ 2014 年・夏

第5章 ヤツタカネと樺太産タカネヒカゲの比較
○ 卵
○ 幼虫
○ 前蛹・蛹
○ 成虫
○ 世代交代のサイクル

第6章 ヤツタカネ物語の増訂
○ 牛山伝造と信濃博物学会
○ タイプ標本の行方
○ ヒナノガリヤスとヒメノガリヤス
○ ヤツタカネの記録追加
○ ヤツタカネの文献追加
○ タカネヒカゲの誤産地と思われる記録追加
○ ヤツタカネの値段
○ ヤツタカネの年譜

第7章 ヤツタカネを次世代に引き継ぐために
○ このまま放置すると
○ 短期的な対策
○ 長期的な対策

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