書名 蝶の生態 観察、撮影、そして思索
著者 木庭宏(きば ひろし) 
発行所 松籟社
体裁 B6・432頁+カラー32頁
発行年 2012年5月30日
定価 3,200円+税(送料別)
内容 著者は2006年3月の退職後、日曜だけでなく平日も蝶の撮影が出来る様になり、2007年からはフィールドでの目撃や観察や撮影データを詳細にパソコンに打ち込むようになった。題して「蝶歳時記」。本書の内容は、この歳時記の主として2006年から2010年までの記録をもとに、蝶の生態について認めた観察記録と、それにまつわる随想的思索と、そしてその間に撮った写真とによって構成されている、2005年発行の「日曜の蝶たち」(1,680円)に続く第二作。

前作よりフィールドが広がったので観察している蝶の種類に変化が見られます。
比叡山のリュウキュウムラサキや色彩異常のウラギンヒョウモンの生態写真の撮影に成功されています
専攻はドイツ文学、ハイネ関係の著書多数。
本書の装丁も蝶の本と言うよりドイツ文学風。

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目 次

はじめに

第一部 フィールドにて

プレリュード 紫の絨毯

第一章 黄金の縁飾り・キベリタテハ
黄色にあらず / 人懐っこい蝶 / ドイツのキベリタテハ

第二章 ホールインワン・リュウキュウムラサキ
バス発車直前に見慣れない蝶が / 迷蝶・リュウキュウムラサキ、一二年ぶりの快挙
 迷蝶と新天地開拓 / 丹後半島のクロアゲハ、蝶と人間のパイオニア

第三章 ヒサマツミドリシジミ始末
二〇〇八年六月、ゼフィルスの発見 / ゼフィルスとは / 種とそのメルクマール、本質と現象
 二〇〇九年六月、再発見 / ゼフィルスの幻色 / 写真同定の結果
ゼフィルスの出現と卍巴の追尾 / 緑の宝石を掬う / 同じ穴の狢 / ゲンゴロウの話
 ベニモンドクチョウとアカスジドクチョウの話 / 自然への畏敬の念 / 仲間たち
トンビに油揚げさらわれて 64/ ハナグモの仕業か / ヒサマツミドリシジミへの執念
 脳のいたずら / 傍証、ヒサマツミドリシジミの棲息地 / 二〇一〇年の調査
二〇一〇年はツキがない? / ツキがめぐってきた
 大きな拾い物・色彩異常のウラギンヒョウモン / 奇蹟は二度おこる / 七夕の出会い
小さな拾い物・ムラサキツバメならぬトラフシジミ / トラフシジミの擬頭 / 祇園祭の出会い
 習慣的行動、フィナーレ / 二〇一一年、ヒサマツミドリシジミ雌の発見

第四章 緋縅の鎧・ヒオドシチョウ
ヒオドシとは / ヒオドシチョウ撮影のコツ / ヒオドシチョウの謎
 襤褸をまとったさすらい人 / ヒオドシチョウの帰還運動?

第五章 胡蝶の道行き・アゲハの求愛
アゲハの雄の奇妙な振舞い / アゲハと孔雀の求愛行動 / オオムラサキとヤマトシジミの場合

第六章 緑のロケット弾・アオバセセリ
ロケット弾の旋回病 / アオバセセリの観察日誌から / 鳥糞を吸うアオバセセリ
 観察日誌の続き / パフォーマンスの舞台か?
アオバセセリの特殊な縄張り行動とアゲハの類似行動 / アゲハの占有行動の再発見
 アオバセセリの費やすエネルギーの意味 / 種と個体 / 世代を越えて守られる時刻の不思議

第七章 黒い疾風・スミナガシ
疾風が吹き抜ける / 名前の由来、絣模様と紅い唇 / 撮影の難しさ、千載一遇のチャンス
 縄張りをはるスミナガシ、真下から撮る / ああ、これでは撮れません / 動物への愛の報い
サカハチチョウとの友誼 / 夢は叶う / 蝶たちは何のために山頂へ集まるのか
 夏型スミナガシとの出会い / 夏型アオバセセリとの出会い、蝶たちの大運動会
夏型スミナガシの撮影に成功 / キアゲハの待ち伏せ型テリトリー占有行動
 鶯色の雨傘での試み / いくつかの疑問とそれへの解答 / 話の続き / 縄張り成らず
縄張り防衛行動の変化、縄張り主の入れ替わり? / フィナーレ? / 縄張り活動の続行
 縄張り主交替についてのまとめ / 二〇一一年のスミナガシ春型と夏型

  付録 リュウキュウムラサキとヤエヤマムラサキの縄張り行動
リュウキュウムラサキの場合 / ヤエヤマムラサキの場合

第八章 天女の羽衣・ホソオチョウ
ホソオチョウの発見 / ホソオチョウのこと / 羽衣をまとって舞う天女
 黒い蝶、白い蝶の大発生 / 三回目、そして四回目の出会い
雄がウマノスズクサ周辺を飛翔するわけ、羽化即交尾 / ホソオチョウの発生時期をめぐって
 二〇〇九年四〜六月、調査再開の結果 / 八月、幼虫そして成虫の発見
新しいポイントの発見 / ホソオチョウの特殊な習性
 ホソオチョウの繁殖ポイントと発生サイクルの断絶 / 二〇一〇年四月、野外調査の開始
春型ホソオチョウの発見 / ホソオチョウ雌一頭の謎とその答え
 その後の調査の結果、発生サイクルの不安定さ / 木津川ギンイチモンジセセリの全滅
話の続き

第九章 華麗なる変身・ジャコウアゲハ
ジャコウアゲハに向き不向きな棲息地 / 攪乱要因としての草刈り
 蛹の抜け殻の発見、その整列と蛹化場所の不思議 / 休眠のメリット / 蛹化前移動のメリット
ジャコウアゲハの幼虫と前蛹の不気味さ / 鳥糞への擬態? / ジャコウアゲハ羽化撮影の失敗
 クロコノマチョウ羽化撮影の成功 / 従容たる運命の受容
二〇一一年、ジャコウアゲハが消えた? / ウマノスズクサ、喰われても、刈られても
 啓蒙主義は自然を守れない / 人間は自然へもどれない


 第二部 書斎にて

第一章 同一理論
同一理論の土台 / ファーブルとオルテガの戒め / 同一理論の再確認 / 子孫の養育
 盗み、かっぱらい、成りすまし、乗っ取り、騙しetc.  / 奴隷制度の考案
恋人へのプレゼント / 擬態とカムフラージュ、アナロジー解釈の危険
 昆虫と人類の発生時期の相違

第二章 人間中心主義相対化のために
文化の相対化と人間中心主義相対化の必要性 / 使用言語の問題 / 動物行動学からの人類への警告

第三章 監視下の天女たち
木津川堤防でのホソオチョウの生態調査 / 駆除ありき / 差別と排除の眼差し
 日本における外来種問題の深刻さ

第四章 蝶の攻撃性をめぐって
ローレンツの攻撃概念 / ドーキンスのローレンツ批判 / 平和主義者としての蝶?
 食物連鎖最下位の環 / 蝶にも儀式化による攻撃の転化はあるのか / ローレンツの考える縄張り
蝶たちの縄張りとその意味 / ドーキンスの縄張り理論 / 出来レース
 ヤエヤマムラサキの抗争と縄張り理論 / 縄張り防衛行動の由来とその仮説 / 蝶道と探雌行動
蝶の定住性をめぐって / 蝶の《定住》環境
 大型ヒョウモンチョウ類のマーキング調査に見る《定住性》 / 蜜源と《定住性》に見られるトレンド
定住性と縄張りと攻撃性 / 蝶たちの不明確な《定住性》とその縄張りの特徴
 他の蝶たちの縄張り活動について / 幻の瓦、戦闘的揚羽蝶

第五章 蝶の遊びをめぐって
蝶の自己目的化した振舞い / ファーブルの観察記録から / キアゲハの不思議な振舞い
 筆者の考える「遊び」の要約 / ホイジンガ著『ホモ・ルーデンス』 / 遊戯についてのテーゼ
遊戯の諸特徴 / 遊戯概念の確認 / 遊戯の相のもとに蝶の行動を見る
 縄張り防衛行動と遊戯 / ホイジンガの考えとの齟齬

第六章 狩猟と蝶の採集
オルテガ著『狩猟についての瞑想』 / 人間であることからの休暇、ハンターであること
 危機にある狩猟、動物そして蝶の激減 / 蝶の採集をめぐる賛否の議論
獲物動物の激減現象と稀少性との区別 / 進歩しない狩猟法と蝶の採集法
 ターゲットへの接近方法 / 捕獲本能 / 狩猟の定義、そして、コレクション、コレクター
狩猟と蝶採集の倫理性 / 八重山での確信、ハナグモからの思わぬプレゼント
 写真狩猟、写真採集 / フィールド

付 録 日米の蝶事情
アメリカの蝶事情 / 日本に目を向ければ / 「蝶屋」、「愛蝶家」と呼ばれる人たちの蝶への愛?
 蝶をめぐる不気味な世界、宮本輝の『蝶』 / 死んだ蝶の“蘇生”とその生命力
死んだ蝶は飛び出すか / 蝶採集に対する世間の批判 / 蝶をめぐる危険な世界

あとがき